転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


58 歴史に残る程の大発見!のはずなのに……



 今回はルルモア視点です。


 ルディーン君のジョブについて私がこんなに頭を悩ましていると言うのに、当の本人はと言うと元気に冒険者たちの中を走り回って毒を消して周っている。
 でも毒消しの魔法は解るけど、彼は何故毎回その後にキュアをかけているのだろう?
 見たところルディーン君は症状が重い人から順番に毒を消して回っているみたいなんだけど、その人たちは大怪我も追っていたから運び込まれた時点でカルロッテちゃんがキュアをかけているはずよね? だから外見上の怪我は治っているはずなんだけど。

 そんな事を考えながら私はルディーン君の姿を目で追っていたんだけど、治した人数が10人を少し越えた頃かな? それまでなら魔法をかけ終わるとすぐに次の冒険者の元へと走っていた彼が、不意に今までとは違う動きを見せた。
 少しの間だけど動かずに少し考えるような素振りをしたかと思ったら次の瞬間、急に冒険者たちから離れて壁際まで走ったかと思ったら、なんとその場に座り込んでしまったのよ。

 いったいどうして?

 それを見た私は軽いパニックになる。
 だってその寸前までは本当に元気に走り回ってたのに座り込んだルディーン君は、その場でうずくまったままピクリとも動か無くなってしまったんですもの。

 はっ! もしかして魔力の枯渇で体調を崩したんじゃ?

 彼は前に自分は魔力が0になっても気分が悪くならないって話してくれたけど、それはあくまで魔法の練習をしている時の話だ。
 練習なんだから当然椅子に座るなりして、落ち着いた環境で魔法を繰り返していたはず。
 それならば今日みたいに走り回って魔法を行使するのはルディーン君にとって初めてのことだろうから、今までと違って気分が悪くなったりしてもおかしくはないんじゃないかしら?

 でももしそうだとしたら大変じゃない! 彼はしっかりしているように見えてもまだ8歳の男の子だ。
 大人なら自分の体調から無理だと判断すれば一旦引いてしまうような状態だったとしても、自分がやらなきゃって思いから子供特有の無茶で貫き通してしまったのかもしれないもの。

「カルロッテちゃん、ルディーン君が座り込んで動かないの。一緒に来て!」

「えっ、あっ、はい!」

 それが解ったからと言っても私に何か出来るわけじゃない。
 だから近くにいた治癒魔法の使い手、見習い神官であるカルロッテちゃんに声をかけて2人でルディーン君の元へと駆け寄った。

「ルディーン君、大丈夫? 魔法の使いすぎで気分が悪くなったの?」

 そして慌てながらも静かに、なるべく優しい声でルディーン君に話しかけたの。
 ここで私があせった声で話しかけたら、きっと彼は無茶をしてでも元気な振りをするだろうと考えてね。

「その声はルルモアさん?」

 すると彼は思いの他元気な声で返事をしてくれたんだけど、その姿はうずくまったままで顔もあげなければ目も開けてくれなかった。
 だから私はやはり気分が悪くなったのだと思い、カルロッテちゃんに治癒魔法をかけてもらおうと考えたんだけど、

「だいじょうぶだよ! MPが切れたからかいふくしてるだけだもん」

「へっ、えむぴぃ?」

 ルディーン君が元気な声でそんな事を言い出したものだから私はカルロッテちゃんと2人、顔を見詰め合って首を捻る事になってしまった。

「うん、MP。キュア・ポイズンとキュアを使いすぎて無くなっちゃったから、こうやってかいふくしてるんだよ」

 私の返事を聞いてよく解って居ないと考えたのか、彼はこう私に説明してくれたんだけど、そう言われても魔法が使えない私には何がなにやらさっぱり解らない。
 でもカルロッテちゃんにはその説明で解ったらしくって、

「多分彼は魔力の事を言っているんだと思います。ルルモアさんはステータスを見ることができるので 魔力の事はご存知ですよね?」

「ええ、魔力は解るわ。生命力同様数値として出ているもの。そう、えむぴぃって言うのは魔力の事なのね」

 よく解らない言い方だったけど、ルディーン君は魔法を独学で学んだって言っていたから正式な言い方を知らなくて、そんなよく解らない呼び方をしていたのかもね。
 でも、そのえむぴぃってのが魔力だって言うのは解ったけど、何故それを回復するのにルディーン君がこんな所でうずくまっているのが私にはよく解らなかった。

「ルディーン君が魔力を回復しているのは解ったわ。でも何故そんな恰好を? 魔力を回復するのならベッドに寝て安静にしてないといけないんじゃないの?」

 そう魔力を回復するにはベッドに寝て目を瞑り、安静にするかそのまま寝てしまうと言うのが一般的だ。
 一応普通に生活していても少しずつは回復していくらしいんだけど、早く魔力を取り戻そうと思うのならそうするのが一番だって私は聞いているもの。

「この方法でもかいふくするよ。だってぼく、やったことあるもん」

 ところがルディーン君からはこんな答えが帰って来たのよね。
 だからカルロッテちゃんに、この話は本当なのかと聞くために目を向けたんだけど、

「そんな方法は私も初耳です」

 彼女からはこんな答えが帰って来た。
 そっか、やっぱりカルロッテちゃんも、こんな方法で魔力が回復するって事を知らなかったのね。

「ルディーン君、だったかな? それってどうやればいいの? 今君がやっているみたいに、しゃがんでじっとしてればいい?」

「ううん。あとね、目もつむらないといけないんだよ」

 だからなのか、カルロッテちゃんはルディーン君からやり方を聞いて早速実践してみる事にしたらしい。

「ルルモアさん、私はステータスが見られないからはっきりと自覚する事ができません。ですから確認してもらえますか?」

「えっ? ええ、解ったわ」

 カルロッテちゃんがルディーン君の横に移動して同じ姿勢をとったので、私も彼女のステータスを見て魔力の上限を確かめる。
 すると驚いた事に、彼女の魔力が少しずつ回復して行ったのよ。
 と言う事はルディーン君が言った事は本当で、この方法を使えばベッドに寝なくても魔力は回復すると言う事だ。

「どうですか、ルルモアさん。魔力は回復していますか?」

「ええ。驚いたわ。本当に回復していってる」

 その事をカルロッテちゃんに伝えると彼女は少し黙って考え、自分の中で纏まった考えを私に話してくれた。

「多分なんですけど、魔力の回復に必要なのは安静にして目を瞑ると言う行為だったと言う事じゃないでしょうか。だから別にわざわざベッドに寝なくても、こうして楽な姿勢をとって目を瞑っていれば魔力は回復して行くんだと思います」

「うん、そうだよ。でもねぇ、ねるともっと早くかいふくするから、時間があるならベッドで寝ちゃったほうがいいんだよ」

 そして私たちの話を聞いていたルディーン君が、カルロッテちゃんの考察を肯定してくれた。
 そうか、ベッドに寝るという行為もちゃんとした意味があったのね。

 でもただ座って目を瞑るだけでも魔力を回復するなんて大発見じゃない! これは多分、この世界全体を揺るがすほどの情報ですもの。
 とまぁ私はその新事実に興奮を隠し切れなかったんだけど、その大発見をした当の本人はと言うと、

「そんなことも知らないんだ。おとななのに、だめだなぁ」

 なんて言っているんですもの、だからこそ事の重大さがまったく解っていない彼に代わって、私がこの事実の発見者としてルディーン君を登録しなければ! って強く感じたのよね。
 だって魔法や魔道具の特許と違ってお金にはならないけど、名誉にはなるもの。
 彼の将来の為にも、この騒ぎが収まったらすぐにギルドの記録に記載して、この国のギルド本部にも書簡を送らないといけないわ。

 そう、私はこの時、こう思っていたのよ。
 でもそんな私の決意はあっと言う間に頓挫する事になってしまう。

「でも知らないんだったら、みんなに教えてあげないといけないね」

「ええ、だからこの騒ぎが終わったらすぐギルドの記録に発見者がルディーン君だって記載して、本部にもこの内容を全支部に伝えるよう書簡を送るつもりよ」

 これを聞けば彼もきっと喜んでくれるだろうと思って私はそう伝えたんだけど、ルディーン君から帰って来たのは思いがけない言葉だった。

「えぇ〜、やだ! こんなの、ふつうのことだもん。それを見た人に、こんなのでなんで? って言われるのいやだから、ぼくの名前はぜったい書かないでよ」

 この以降、いや名誉な事だから、歴史的な大発見だからと私がどんなに説得してもルディーン君は「やだ!」の一点張り。

 こうして私の決意は脆くも崩れ去ったのである。


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